近年、工業デザインの分野で注目されている言葉としてCMFがあります。CMFとはカラー、マテリアル、フィニッシングの頭文字で、製品の多色展開としてのカラーバリエーションだけでなく、質感や触り心地というような要素もデザインの対象とする考え方です。
このCMFは、多くの素材に関する知識やサンプルなどを活用し、形状などがデザインされた後(工程としては後ろの方)に展開されることが多くありました。
近年のデジタルを活用したデザインプロセスでは、レンダラーと呼ばれる精細な素材設定ができるCGアプリケーションの登場により、このCMFをより簡単に行うことが可能になりました。

カラーバリエーション検討(学生作品)
買い物などをしている人に注目していると、商品を手で触って質感を確認している姿を多く見かけます。また、WEBショッピングなどでは画面上だと素材感がわからないということが問題の一つとしてあります。このように、意識していないとしてもプロダクトのCMFは重要視されていることが理解できると思います。
大学における課題制作におけるCMFは、制作するイメージの初期段階で意識するようにしています。素材感がデザインの形状にも大きな影響を与えると同時に、製品のコンセプトを表現することにも活用できるためです。今までは硬いプラスティックや金属で作られていたものも、技術革新によってソフトタッチの加工が可能になりました。

3Dプリンター使用によるデザインプロセス(学生作品)
革のような素材感もプラステックで実現できますし、金属であってもエイジング加工のような、使われてきたような質感再現、塗装や光による演出効果など、いろいろな表現ができるようになってきました。
CMFを考える中で、そのデザインを制作するための製造方法も検討しなければなりません。それは、使用する素材によっても、作り方、アッセンブル方法、コストなども大きく変わるためです。ここでは知識として持っている製造方法から、自分のイメージするデザインを実現するためのアイデアとしての製造方法を検討する必要があります。このような部分がCMFを検討しながら、デザインを実学的に考えるポイントになると考えています。
多くの市場にある先行事例としての商品をリサーチし、自分のイメージする素材感の製造方法を調査することも必要になりますし、場合によっては新たな研究テーマとして展開できる可能性も持っています。工業デザインは、今まではカッコイイというキーワードが重要であった部分もありますが、CMFでは、より繊細な感性の部分のデザインが重要になります。
色や素材感、製造方法も含めて実学的なデザインを学びましょう。
(工業ものづくりコース 相野谷威雄)